ラブソングは舞台の上で
高校を卒業して、この会社に就職して以降、できるだけ自炊で生活をしてきた。
料理は得意ではないが、人並みにはできるつもりでいる。
調味料をどれだけ入れたらどんな味になるかの感覚はあるし、味見をすれば何が足りないのかわかる程度には、センスを磨いてきたつもりだ。
ただし、お菓子作りを除く。
「あああ……大丈夫かなぁ」
オーブンレンジを覗きながら呟いた。
レシピ通りに作っても心配になってしまうのがお菓子作りだ。
お菓子作りはおかず作りよりずっと細かく材料の配分が決まっており、それらを扱う技術を求められる。
砂糖をたくさん使っているから焦げやすいにも関わらず、
「設定温度や焼き時間はオーブンの性能によって調節してください」
などと、最も肝心なところで突き放されるのだ。
ビビって早く出してしまうと生焼けになっていたりするし、オーブンを信用しすぎて焦がしてしまったこともある。
一番好きな人に喜んでもらえるよう美味しく作りたいのに、成功までの試練が多すぎる。