ラブソングは舞台の上で




『ごめん。イブ、用事できた』

メールで翔平にそう伝えると、5分後に返信が来た。

『わかった。楽しんできて』

絵文字も何もない、要点だけのシンプルなメール。

私たちは付き合っている頃も、同じような味気ないやり取りをしていた。

翔平は素っ気ないけれど、私も素っ気ないからお互い様だし、無理をして恋人同士を演じるより楽だった。

翔平は私と似ている部分が多いから、ピッタリの人だ。

そう思っていたけど、本当は物足りなかった。

恥ずかしさと戦いながら愛情を表現したり、どっぷり愛される幸せを噛み締めたり、胸焼けするほどに甘ったるい恋愛をしてみたいという気持ちは、ずっとあった。

私は無理をして、満足しているふりをしていた。

彼との関係を重く感じていた要因のひとつは、自分に嘘をつき続けていたことだろう。

『明日香は完全にMだと思うよ』

いつか晴海が言っていたことは、あながち間違いではないかもしれない。

彼に散々イジられていることを、私は一度も嫌だと思ったことはない。

私には、自分に似ている人よりも、たくさん構ってくれる人に応える方が心地いいのだと、ようやく知った。



< 90 / 315 >

この作品をシェア

pagetop