人見知りのキリスト
「彼女は光山龍神の小説が大のお気に入りでした。あなたも早く世に出られる様がんばりなさい。オードリーはいつでも天からあなたを見守っていてくださいますよ」



――遅かった……

母さん、ごめん。

本当にごめん……。



「彼女から遺言があります。もっとも、神の遺言でもありますが。万一、息子に会えなかった時は詩篇の一節を聞かせてやって欲しいと」

 
神父が何か言ってるが、自身の嗚咽がそれをかき消した。


神父さん、あんたに泣いてくれとは頼まない。


ただ、少しぐらい取り乱してもいいんじゃないのか。


しかし、聖職者としてのプロ意識がそうさせるのか、神父のバリトンは淀みなく朗々と続いた。



「主は心の打ち砕かれた者の近くにおられ、魂の砕かれた者を救われる。正しい者の悩みは多い。しかし、主はその全てから彼を救い出される――」
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