キスまでの距離
確率の問題

side A

「ちょっと図書室寄ってから行くから、先輩に言っといて。」
「あいよ。」

この何でもないやり取りが、あとで悩む展開になるとは思いもしなかった。

音楽室に入ると、サックスの千佳に声をかけられた。

「ねー、ねー、裕作、図書室で借りた本は自分で選んだ本?」

意味不明だった。自分で選ばなかったら一体なにがあるのだろうか。自分で選んだことを伝えると、残念そうな顔をした。

「なあ千佳、全く意味が分からないんだけど。」
「いや、さっきね、のりちゃんから聞いたんだけど。」

のりちゃんとは、彼女と同じサックスパートの2年生だ。

「図書室に新しく入った先生いるでしょ?」

そういえば、名前は覚えていないが、若い先生が4月に着任したっけ。
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