にじいろどろっぷす。
黒いモヤのようなものが視界に捉え、そこに突っ込むように私は落ちた。ただ、そのモヤのようなものが人だったとは露知らず。


「いってぇ、」


高くもなく低くもない、調度良いテノールが耳に入ってきた。落ちた場所は床とは程遠く、暖かくて柔らかい。そう思うのも無理はない。何せ、私は人の上に落ちたのだから。それに気づいたのは、落ちた直後に入ってきた声だった。お陰で私に痛みはやって来なかったが。

にしても、今日は入学式の日だ。もうこんな時間だ。新入生である学生らは私だけのはずだ(つい先程まで妄想していたから)。
でも私の視界全体を覆うのは限りない白、白、白。紛れもない制服のYシャツだ。じゃあ、私の下にいる人は一体誰?


「おい、いつまで乗ってんの?」


男っぽい口調で話す人らしきものの声ではっとした。
そうだ、転んで落ちてからそのままだった!


『ご、ごめんなさい!』


慌てて謝り、誰だか確認しようと顔を上げた。のが、間違いだった。思っていたより幾分か近くにあった人らしき顔。近くてハッキリしないが、ピントがあった瞬間、今まで自分も経験したことのない位に目を見開いた。そして冒頭に戻る。


ーーそこには帰った筈の青葉先輩が、


「つか、リボンの色はーー赤?新入生?」


いけない、また意識飛んでた!


『そうです、さっきまで体育館で入学式があったので…』


この人、あれから結構時間経つのに何で帰ってないの。いや、でも、そのお陰で命拾いしたんだけど…


「ふーん…。で、君はいつになったら退くわけ?」

『…へ?』

「へ?じゃねぇよ。おっこってきたじゃん、良かったな。俺がこの辺ぶらついてて」



そりゃあ、運が良かったとしか…。
なんて、先輩に言えるわけでもなく、ただ頷くだけしかできなかった。


「それより、退くいてくんない?」

『は、はい。すみません、青葉先輩!』

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