私が恋した男〜海男と都会男~
 翌日編集部フロアに入ると、スポーツ部のエリアには机に突っ伏して寝ている人たちが多く、相変わらず荒木編集長の姿は無い。

 荒木編集長の机には束になった原稿が沢山積み上げられていて、季刊の原稿を印刷所へ提出する期間に間に合えばいいんだけれどなぁ。

「ぼさっと突っ立ってねぇで、季刊の原稿は進んでんのか?」

 後ろに振り返ったら姫川編集長が立っていて、手には缶コーヒーを2つ持っている。

「まだ絞りきれなくて…」
「お前がメインで書くんだから、早めに決めろ。でねぇと次の『Focus』の原稿、お前のページを減らすぞ」
「脅しですか?!」

 いや、姫川編集長は冗談は言わないし、絶対に減らすことをしそうだ。

 姫川編集長とタウン情報部のエリアに行き、それぞれの椅子に座ってパソコンの電源を入れる。

 先ずは昨日スマホで撮影した写真をパソコンのハードディスクに保存して、あ、漁港の田中さんにも後で正式に取材したい旨を確認しなくちゃ。

 バックからスマホを取り出して、ケーブルを使ってパソコンとスマホを繋げ、写真をパソコンに保存していく。

「冷たっ」

 行き成り右頬が冷たくなって、何事?!

「飲め」

 私の机の上に缶コーヒーが1つ置かれたので見上げたら、姫川編集長が缶コーヒーを飲みながらパソコンの画面を覗いてる。

「随分ぶれた写真が多いな」
「スマホで撮影したので、それが原因です。今度姫川編集長のカメラを貸して下さい」
「1シャッターにつき、3000円」
「お金取る気ですか?」
「タダで教えるかよ」

 姫川編集長は鼻で笑い、自分の椅子にドカッと座った。

 絶対にお金なんて払うもんですか!あーもーむかむかする!今回の季刊のページは絶対に姫川編集長に納得してもらえるように書くんだから!!

 タウン情報部のエリアだけ、私のキーボードを打つ強い音だけが響いた。
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