私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
「あんたを助けたのは3度目だな」
「はい」

 私の前を歩く海斗さんはこちらに振り向きもしないし、海斗さんの話し方はぶっきらぼうだけど、握られている手の温かさが海斗さんの優しさを表しているような気がする。

 好き、だなぁ。

 今は仕事中なのは承知だけど、『好きです、海斗さん』と声に出さないで、何度も心の中で想いを呟く。

 海から波の音が聞こえ、潮風が私たちを包むかのように吹いて、それが何だか胸が切なくて、泣きそうになるのを必死に堪えていると駅が見え、海斗さんは手をそっと離した。

「今度はナンパされないように、兄ちゃんと来ればいい。あいつが傍にいれば誰も近づかないから」
「なん―…」

 何でって言おうとしたら海斗さんは足早に私の所から離れて行っちゃうし、あれは完璧に私と姫川編集長が付き合っていると誤解しているよ。

「お客さん、終電が出ますよ?」
「乗ります」

 駅員さんが声をかけてきたので、切符を買って終電に乗って窓の外をみると外は真っ暗で、景色がよく解んないや。

 このまま海斗さんにずっと誤解されたままじゃ嫌…、あ、そうだ。

 言葉で伝えられないのなら、私に出来ることは"これ"しかない。

 はやる気持ちをなんとか抑えて四つ葉出版社に戻ると、編集部フロアには姫川編集長と水瀬編集長しかいなかった。

「姫川編集長、戻りました」
「(原稿は)最後まで書けるのか?」
「書けます。書いてみせます!!」

 朝は弱気だったのに、今はまっすぐ姫川編集長を見つめながら言った。

「なら、書け」

 姫川編集長はそう言うとパソコンのキーボードを素早く打ち始め、私も自分の席に座ってパソコンを立ち上げて取材をしたメモ帳を見ながらキーボードを打ち始めた。

「大丈夫そうだね。俺は先にあがるから、また明日ね」

 水瀬編集長はそういうと、バックを手にして編集部を出て行った。

 よーし、何としてでも原稿を書いて、海斗さんに読んでもらおう!!!
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