私が恋した男〜海男と都会男~
編集部フロアに戻って今日の取材内容の文字おこしをしていたら、編集部フロアのドアが開いて高坂専務が笑顔で入ってきた。

「やっほ~、楽しんで作業している?」
「お前にはそう見えるか、めでてー奴だ」

姫川編集長が高坂専務に突っ込みを入れると、連日の徹夜をして他の部署の皆も高坂専務のテンションの高さにげんなりしている。

高坂専務が提案した季刊の発行は全部の部署を巻き込んで携わっているから泊まり込みでいた人もいて煮詰まって発狂しそうになったり、『次は違う職業の奴に生まれ変わりたい』だの『転職する建物に行きたい』だのと精神的に追い詰められていた人もいるのに、高坂専務だけが向日葵のような笑顔だ。

高坂専務がつかつかと姫川編集長のそばに来ると、姫川編集長の肩を右手でポンッと叩く。

「ねぇ姫川、最近飲みの付き合いが悪いなぁ。今日くらいは来いよ」
「行かねーよ。つか、邪魔しに来たんなら帰れ」

姫川編集長が高坂専務に向かって、シッシッと払う仕草をする。

「そんなこと言わないでさ~。それじゃあ九条ちゃんを誘っちゃおうかなぁ」
「いえ、私は今日は先約があって行けません」

役員からの誘いを断ると付き合いがって思うけど、今日は茜から合コンのピンチヒッターとしてお願いされているし、約束を優先しなくちゃ。

「そっかぁ~残念。まっ、今度デートしてね」

高坂専務は語尾に星マークをつけるようにパチッとウィンクをして編集部フロアを出ていき、なんだろう、高坂専務ってハートが強い人だな。

「ぼさっとしてねぇで、早く文字おこしをしろよ」
「分かってます」

茜との約束の時間に遅れないようにしなくちゃと意識を集中して、黙々とキーを打つ。

あの洋菓子店フルールに行きたくなるように、たくさんのショーケースに入ったケーキを食べたくなるように、と田島さんの言葉を一つ一つ間違いのないように入力した。

文字おこしが終わったから、次はレイアウトだな。

マウスを使って姫川編集長が撮影したケーキの写真はこの位置に置くとして、一つの段落はこのくらいの行数にして…と、うーん、文字の大きさを少しだけ小さくしてみようかな?

編集ボタンを使って文字の大きさを調整をしてみると小さすぎ?ほんの少しだけ大きくしてみて…、うん、これならいいかも。

どんな具合になるか1枚だけ印刷をして、姫川編集長に見せてみた。

「最初のページはこのようにしていこうと思うのですが、どうですか?」
「写真を左に3ミリ寄せてみろ。そうすりゃー段落のスペースが空く」
「分かりました。もう一度調整をします」

すんなりOKは出ないか…、でもグチグチしている場合じゃないし、とことんやってみよう!
< 148 / 161 >

この作品をシェア

pagetop