私が恋した男〜海男と都会男~
洋菓子店の空きスペースで田島さんに自分で考えた質問をし始め、姫川編集長は持ち込んだカメラで店内やケーキなどを撮影をしていく。

今まで取材だと姫川編集長がリードしてもらっていた部分が多いから、こうして1から10まで自分がするとやっぱり緊張しちゃって時折滑舌がうまくいかないときがあるけれど、田島さんが優しい人で、一つ一つ丁寧に答えてくれるのがとても嬉しい。

桃子さんが用意してくれたケーキを姫川編集長がカメラを使って様々な角度から撮影をしていき、うーん、アップの写真も欲しいな。

「姫川編集長、ケーキのアップを1枚欲しいんですけどいいですか?」
「待ってろ」

姫川編集長はカメラから顔を離すとサイドについているボタンを何度も押し、そしてカメラを構えて静かにボタンを押した。

「よし、これでどうだ」
「すごい…」

私にカメラの液晶画面を見せると、ケーキはぼやけもなく、外からの光がケーキの存在を引き立てるように入っていて、きちんとピントが合っていて、すごいなぁ…すごいしか言えないや。

「早くここまでこい」

いつものように棘がある言い方だけど、高坂専務が言っていたことを思い出して、絶対に姫川編集長のところに追いついて追い越してみるとやる気が出てきた。

「追い越してみせますからね」
「そう簡単に追い越せるためにやってねぇよ」
「お2人は仲がいいんですね」
「違います」

田島さんの言葉に2人で同時に答えると、田島さんが思いっきり笑う。

「あははは!いやー、いろんな取材を申し込まれましたけど貴方たちのような雰囲気は初めてです。貴方たちなら私たちの洋菓子をきちんと伝えてもらえそうだ」
「もちろん、伝えます」

私は田島さんの気持ちに応えるべく、真っすぐに答えた。

「また新作が出来たから連絡をしますよ。今後ともよろしくお願いします」
「はい!本日は取材に答えていただいてありがとうございました!原稿が出来ましたら、確認のためにまた伺います」
「ええ。お待ちしています」

洋菓子店フルールを出て最寄り駅に向かい、電車が来るまでホームで待つ。

「今日の取材、自分でやってみてどうだ?」
「1から10まで自分でページのことを考えながらやるとなると頭がパンクしそうでしたが、田島さんと読者の懸け橋になれるようにって伝えていきたいと思いました」
「まぁ、これからもお前に期待してるから、情けねぇ顔しないでついてこい」

期待しているから…、うわ…初めて言われたから、顔がにやける。

「気色悪い顔をすんなよ」
「違います!せっかく良いこと言うなって思っていたんです!」
「せっかくってなんだ。明日からもっとこき使う」

電車がホームに来ても、四葉出版社の編集部に戻るまで何度も2人でぎゃいぎゃい言い合った。
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