私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
 私は四つ葉出版につくと2階にあがって、ICカードをかざしてフロアに入る。

「おはようございまーす…って、誰もいないし!」

 私はタウン情報部のスペースに行くと、もちろん姫川編集長の姿がない。

「それにしても、この書類の多さはなんなんだろう」

 相変わらず姫川編集長の机は書類やファイルが乱雑に重ねられていて、ファイルの山で今にも崩れそうだし。

 姫川編集長って見た目もそうだけれど、普段もだらしないのかと思えてきた。

 先ずは昨日も何度も突き返された原稿を仕上げないと思ってパソコンの電源を入れていると、ドアから姫川編集長が入ってきたのでスポーツ部の人が驚く。

「あれ、姫川さん早いっすね」
「締切が近いからな」
「雑誌の発売、楽しみにしてますよ」
「そりゃどーも」

 姫川編集長はモジャモジャの髪の毛をぼりぼりと掻き、口を大きく開けて欠伸しながらこちらに歩いてくる。

「おはようございます」
「はようさん」

 姫川編集長は気怠そうに椅子に座り、机の上にある書類をがさがさとあさり出しすと、乱雑に置かれたファイルがバサバサと机の上から落ちた。

「うぉっ」
「も~、乱雑に置いておくのが悪いんですよ。はい、どうぞ」
「悪いな」

 私は予想していた雪崩が起きたので呆れながらファイルを拾って姫川編集長に渡すと、姫川編集長の机の上にある写真立てに目が留まった。

 その写真立てには海の写真が一枚収められていて、海と一緒に灯台も写っている。

 朝陽の光で海がキラキラと輝いていて、景色も良いな。

「姫川編集長、その写真の海ってどこですか?綺麗な海ですね」
「ん?あー…、いたって普通の海だ」

 姫川編集長は写真立てをそっと伏せ、ファイルを崩さないように机の上に重ねる。

 あまり写真について触れちゃダメだったのかな?と思って、それ以上は聞かないようにした。
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