私が恋した男〜海男と都会男~
「ありがとうございました。雑誌が発売になりましたら、改めてご連絡します」
「此方こそ、ありがとうございます」
「私、このお店がとても気に入りました」
「そう言って頂けて嬉しいです」
「でわ、失礼します」
「失礼します」

 大守さんはニカッと白い歯を見せて笑い、私たちは一礼して【もりや】を出ていった。

 お腹は鶏定食で満たされ、これなら原稿作りの力になれそう。

「姫川編集長、出された料理って美味しかったですよね」
「ああ、そうだな」
「私、普段のお昼はコンビニで済ませちゃうんですよ。今回取材がなかったらここの住宅街や【もりや】に気づけなかったので、また歩いてみたくなりました」
「そりゃ良かった。今お前が言った「歩いてみたい」っていう台詞は、読者からの最大の褒め言葉だ。俺はそれを聞きたくて、『Focus』を作り続けてる」

 姫川編集長がまっすぐ前を見ながら言い、私って何だか仕事に対する姿勢がきちんとしていなかったかもしれない。

 突然の異動で仕事についていくのが必死でファッション部に戻りたくて、姫川編集長の仕事に対する姿勢を見ていなかったと反省して、肩にかけているバックの紐をぎゅっと握りながら口を開く。

「姫川編集長、私も姫川編集長のように読者からその言葉を聞けるようになれますか?」
「お前次第だが、俺が傍にいるからやってみろ」
「姫川編集長…」

 "傍にいる"だなんて、初めて言われちゃった。

 きっと私の力が未熟だからそう言ったかもしれないけれど、私の中で姫川編集長に対する何かが変わっていくような…、そんな気がした帰り道のことだった。
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