私が恋した男〜海男と都会男~
 写真の撮影枚数はかなりの数になり、姫川編集長はふぅっと一息ついてカメラを鞄にしまった。

「これでいいな。九条、この定食を食べていいぞ。大守さん、俺は魚定食でお願いします」
「あい、喜んで!」
「突っ立てないで、そっちに座れ」
「はい、失礼します」

 姫川編集長は顎を使って鶏定食が置かれている方の席に座るようにと促したので、私と姫川編集長は向かい合うような形に座った。

「先に食べていいぞ」
「でも…」

 まだ姫川編集長が頼んだ料理が運ばれてないし、先に食べるのはちょっとまずいような。

「いいから食べろ」
「じゃあ、お言葉に甘えてお先にいただきます」
「……」

 私は手を合わせて目の前ににある鶏定食を食べ始めると、鶏の衣はカリッとしていて、噛むたびに肉汁が口の中に広がる。

 私が鶏定食を食べているのを姫川編集長はただ黙って見ていて、やがて大守さんが姫川編集長の前に魚定食を置いた。
 
 今日の魚定食はお刺身の盛り合わせで、私が普段スーパーで見るお刺身の鮮度とは違うというのが分かるくらい色が鮮やか。

「いただきます」

 姫川編集長はお刺身を一口食べると、嬉しそうにふっと笑った。

 私はいつも嫌味ぽく笑ったりする表情しか見たことがないから、鶏を食べずに姫川編集長をじぃっと見る。

「どうした?箸が止まってるぞ」
「へっ?!あっ、何でもないです」

 私はじぃっと見ていたなんて気づかれたくなくて、お椀に口をつけてお味噌汁を飲んだ。
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