私が恋した男(旧題:ナツコイ~海男と都会男~)
 台所から歩いて数十秒くらいで縁側がある場所に着くと、海斗さんは縁側にある雨戸の全てを収納スペースのような隙間にしまった。

 そして雨戸を全てしまったことにより外の景色が見え、この家が高台にあるのが分かり、海が見えた。

 空は暗いけれど、ほんの少しだけ月の明かりで海が星空のようにキラキラと輝いているから、太陽が昇る時間帯だともっと綺麗だろうな。

「すごく綺麗…」
「あんたも座れば?」

 海斗さんは縁側に腰を降ろしたので、私は海斗さんから少し距離をあけて縁側に腰を降ろして目の前の景色を眺める。

 宇ノ島の周辺を散策していた時は車の往来や観光客で騒がしかったけれど、この家はそこから大分離れているので、音が聞こえるとすれば虫の鳴き声やそよ風の音ぐらいだ。

 そよ風が吹くと気持ちよくて瞼をそっと閉じると、さっきまで落ち込んでいた気持ちが心地よいそよ風によって飛んでいくような気がする。

「俺がガキの頃に兄貴と喧嘩して落ち込んでいたら、親父は俺を励ます時にこの景色を見せてくれたんだ」

 私は瞼をそっと開けて隣にいる海斗さんを見上げると、海斗さんはまっすぐ前を向いたままでいる。

「それ以来、何かあればこうして夜の海を眺めるようにしてる」
「海斗さん、ありがとうございます」
「別に」

 ぶっきらぼうな返事の仕方だけど、きっと海斗さんは台所で会ったときに落ち込んでいた私の表情に気づいていたから、こうして素敵な景色を見せてくれたんだと思うと、海斗さんの優しさに胸が温かくなる。
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