あなたが作るおいしいごはん【完】

『萌絵がいるのだから、浮気はない。』

『それに…こうして
この事務所の中まで
入らせている女性は萌絵だけだから。』


その言葉に胸がキュンとした。

抱き締められている温もりが優しい…。


…嬉しいな。


私がこの人の

特別でいられている気がして…。


「…カズ…さん。」


……“カズさん…私はあなたが好き。”


いつも言いたくても

言えずに胸に押し込めている言葉。

この想いを声にして伝えたくなる。


しかし、神様は残酷だ…。


『……萌絵は靖雄さんの大切な娘だからね。』


その言葉が頭上から降り注いだ瞬間


………私の心の中のガラスが

パリーンと音を立てて割れた。


「………。」

彼が父の名前を口にすると

私はいつも胸が締め付けられて

辛くて苦しくなる。


……ねえ、カズさん。

あなたはやっぱり父が大事?

私を大事にしてくれるのは

父の娘だから?

いつになれば

嫉妬に苦しめられずに済むの?


私はこのまま彼と結婚しても

一生嫉妬のまま?



彼の背中に回そうとした私の腕は

虚しくストンと下に下りた。







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