あなたが作るおいしいごはん【完】

『….靖英離せ!!
コイツは萌絵を…俺の姫をっ。』

彼はなおも抵抗していた時

「…和亮さん…やめて…。」

私は咄嗟に手を伸ばして

彼の左腕を掴んでいた。


「…うっ。」

さっきまで

薮嶋恭平に掴まれていた肩が

ズキンと微かに痛むけど

彼が築き上げてきた地位と名誉を

汚してまでこの男に

手を挙げて欲しくなかったから…。


おいしいご飯を作ってくれる

繊細で優しい彼の手が好きだから

綺麗なままでいて欲しかったから。


それに…私は嬉しかった。

彼がこうして

私の事を好きじゃなくても

危ないところを助けに来てくれたから。

私の事を

『俺の姫』と言ってくれたから…。

私の為に薮嶋恭平に

掴みかかろうとしてまで

怒ってくれたから…。

私の為に涙を流してくれたから…。


『………萌…絵?』

我に帰ったのか

抵抗をやめて振り向いた彼は

目元の涙に気づいて自らの手で拭うと

『…萌絵、大丈夫か!?
体のどこか痛むのか!?』

と、慌ててしゃがみ込んで

心配そうに私の顔を覗き込んだ。

私は首を横に振ると

「…来てくれたから…。
もうそれだけで…。」

と、静かに微笑んで見せた。

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