あなたが作るおいしいごはん【完】

『…靖英。
冷凍庫に小さい保冷剤とかないか?
なかったら、ポリ袋に氷水でもいいから
貰えないか?』

私の頬を見ながら

彼は靖英の方に視線を向けた。

『…いいよ…取ってくる。』

そう言って靖英が

キッチンの冷凍庫から

保冷剤を取って来てくれた。


『…サンキュ。』

彼は靖英から受け取ると

『…ちょっと冷たいぞ。』

と、私の左頬にそれを当ててくれた。

叩かれたところが

ひんやりと気持ちよかった。


『…他にもどこか痛むか?』

もう片方の指先が

私の右の頬を優しく撫でてくれた。


…ドクン…ドクン。


こんな時でも高鳴る胸に

やっと恐怖から救われた実感が

ジワジワとわいて来て

「…大丈夫。」

そう呟いた瞬間に

何だか私の目の前の視界が

グラリと揺らいできたのを感じ

体が前のめりになった私は

ドスッと彼の胸に倒れこんだ。


…何だろう…どうしたんだろう。

声が出ない…。


『……萌絵!?』

彼が背中に手を添えて

心配しながら私を覗き込む。

『…どうした!?』

私を心配そうに呼ぶ声が

遠くから聞こえるけど

視界が真っ暗になった私は

彼の腕の中で


…いつの間にか意識を手放していた。

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