あなたが作るおいしいごはん【完】
「………覚えてます。」
なぜか私の胸はドキドキしたままで
細々と聞こえる程度の声しか
出せなかった。
『…覚えてるなら良かった。』
そう口を開く彼の表情は
まだ若干硬かった。
『…これも前に言ったはずだけど
婚約したからと言って
今の俺は萌絵ちゃんに対して
特別に何かして貰おうとか
無理してでも
俺の職業や仕事の事を
理解しろとか、把握しろとか
支えて貰わなければ困るとか
そんな事は全然思っていないんだ。』
「……カズ兄ちゃん。」
『…どんなに忙しくても
メシは俺が作るし、家事もするから
萌絵ちゃんは
俺がどうしても出来ない時だけ
助けてくれればいい。』
「…それで…いいの?」
恐る恐る確かめる私に
『…ああ。
今はそれだけで十分だし
卒業して入籍したら
支えて貰いたいと思っている。』
彼は頷いて答えた。
『…だから一緒に暮らしても
俺に気を遣わずに
勿論、何かあった時は絶対に隠さずに
相談してくれたらいいから
萌絵ちゃんには、2年間の学生生活を
ちゃんと全うして貰いたいんだ。』
彼の表情がさっきよりは
少しずつ軟化していくのを感じた。