あなたが作るおいしいごはん【完】
私が頷いたのを確認した彼は
一瞬優しく微笑むと
再び視線を前に向けた。
『…俺は料理が大好きだから
大好きな事を職業にしたから
色んな食材の色んな食べ方や調理法を
勉強して研究して、探究してきた。
夢を叶えた今でも
勉強も研究も探究も終わりじゃなく
一つの通過地点にしか過ぎない。
…だからこれからも
俺がまだまだ知らない
食材のおいしい食べ方や調理法を
見出して、増やしていく事に
いつもワクワクしてるんだ。』
「……。」
《どら焼き》を齧りながら
彼の話を黙って聞いていた私に
『…ごめんね。訳わからない事を
長々と話しちゃってたね。』
彼は謝りながら
こちらに視線を向けると
『…俺は昔
良く家に遊びに来てくれた
小さい頃の萌絵ちゃんの事は
良く知っているつもりだけど
お互いに大きくなってからは
会う機会がめっきり減ったから
嫌いじゃないけど
正直…今の萌絵ちゃんに関しては
知らない事が山ほどある。
…だからこそ
萌絵ちゃんを色んな方法で
ゆっくり、じっくり探究して
……好きになりたいんだ。』
そう言って
私の瞳を覗くように見つめた。