あなたが作るおいしいごはん【完】

…….…不思議だなぁ。

何だろう……この気持ち。

あのお見合いの日から

心の中がいつもモヤモヤしていた。

逆らえない…逆らっても

もうどうなる訳でもないのは

わかっていた。


それでも

やっぱりしっくりこなくて

本当にそれでいいのかどうか

納得出来なかったから

ご飯の味も食欲もわかなくなるほど

追い込まれていた。


だけど

彼がわざわざ私の為に作ってくれた

《サンドイッチ》と《どら焼き》は

体が『おいしい』と素直に受け付けた。


そして今

ここに彼とこうして座っている

この空気が何だかとても優しくて

頬に感じた彼の指先と手の温もりに

思わずドキドキしてしまって

私の為に用意してくれた婚約指輪が

素早く指に馴染んでしまって

この政略結婚を受け入れる手筈を

整えていた彼の決意と

そこから伝わる重みも感じた。


彼は私とじゃなくて

父の恩と婚約したのに

何だか私はもう

心が奪われそうになって

彼の提案に素直に頷いてしまいそうな

……そんな自分がいた。

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