あなたが作るおいしいごはん【完】

『…萌絵ちゃん。』

いつの間にか

私の手にあったはずの《どら焼き》は

彼が丁寧にラッピング袋へと

仕舞っていた。

そして彼は

私の左手を軽く持ち上げて

もう片方の手も

包み込むように触れた。


『…食べた事のなかったものが
食べてみたら意外とおいしいと
思えるようになったり

苦手だったのに
段々食べられるようになって
今では大好きになったと
思えるようになったりするように

俺もこの運命を背負って
受け入れた以上は
2年間あるんだから
美味いメシを通して
色んな方法を使って
じっくりゆっくり
萌絵ちゃんと向き合うから

萌絵ちゃんも
色んな方法で決して焦らず
じっくりゆっくり向き合ってくれよな。

…2年後にどれだけお互いが
おいしく出来上がっていくのか
未知なる世界だけど

……よろしくね。俺のお姫さま。』


この日を以って

私は自分が抱えるモヤモヤも

これ以上の不安な気持ちすら

彼に言い出す事が出来なくなった。


この日から私は多分

彼に…カズ兄ちゃんに

押谷和亮に惹かれ始めていたと思う。


この先どうなるのかわからない

私と彼の婚約はこの日成立した。
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