あなたが作るおいしいごはん【完】
私が小学校の高学年になり
自分でご飯を作るようになってから
『…たくさん作り過ぎたから
良かったら夕食に皆で食べてね。』
と、彼は時々自宅に
煮物を差し入れに来てくれて
『…良かったら参考に見てね。』
と、一緒に煮物のレシピまでくれた。
レシピは当時小学生の私でも
わかるようにと
簡単なイラストが描かれていたり
写真も貼ってくれている日もあって
彼なりの工夫が施されていた。
実際にレシピを見ながら
失敗しないかどうか
ドキドキしながら作ってみると
彼のような優しい味わいには
及ばないと思いながらも
初めてにしては上手く出来て
『…この煮物は萌絵が作ったのか!?
凄く美味いじゃないか!!』
『…お姉ちゃん、おいしい。
これだったら僕もお野菜食べられる。』
と、父や靖英が褒めてくれた時は
凄く嬉しかった。
そうやって彼は時々
浅倉家の夕食を助けてくれた。
だけど
ふと彼の口から父の名前が出た事に
少しだけ私の心に
複雑な気持ちが入り混じりながらも
凄くありがたかったあの時の事を
私は煮物を噛み締めながら思い出した。