tiny little bows
1


シロタサクラが死んだ。


高校時代の同級生から電話がかかってきた。僕は携帯電話を落としそうになった。

「シロタって…あの白田桜?」
少しの間があって僕はもう一度確認した。白田桜でないことを願っていた。
「だから…ほら!ナツも仲良かった白田さん!」
電話の声は嘘を付いているような感じではなかった。急かすような、感極まったような声色だった。
「嘘だろ…」
僕は信じられないまま電話を切ってしばらく放心状態になっていた。ソファにドカッと座りこんだまま何時間も遠くを見ていた。

「ナツ!」

今でも白田桜の声が聞こえてくるようだ。
ついこの間まで近くにいたのだ。
今、高校を卒業して大学に入って3ヶ月くらいになる。
3ヶ月前には彼女は生きていたのだ。まだ彼女の顔や表情、仕草をしっかり覚えている。だから実感が湧かないのだ。
ため息を何回もついた。未だに友達の嘘だろうという考えが捨てられない。
嘘ではない、と完全に理解できたのは彼女の葬式に行ってからである。


部屋の中へ入ると目の前には大勢の人がいて、彼女の写真や花が飾ってあった。写真の中の彼女は綺麗な笑顔だった。
涙も出ない。高校時代の友やそれ以前の友が泣きながら彼女の名前を呼んでいる。
その場面を見て、彼女が愛されていたことがよくわかった。
「ナツ」
呼ばれて振り返ると、僕の友達の渡 武彦が何とも言えない顔で立っていた。
「信じられないよ、俺は」
僕は武彦の顔を見て、呟いた。それに武彦は同意したみたいで軽く頷いた。
「白田さん、この間まですごく近くにいたのにな。一気に遠くまで行っちゃったよ」
武彦は涙ぐんでいた。目が真っ赤でとても大きく開いた。泣かないように我慢しているのだろう。
「ほんとにさ、嘘だって思うんだよなぁ。」
僕は彼女の写真を見た。今にも声をかけてきて笑いかける彼女の顔を見るとさらに信じられない気持ちが出てくるのだ。
そんな時だった。

「ナツ…オくん?」
声をかけられた。40歳前半の小柄の女性だった。
「は、はい。」
「私、桜の母です。桜からよく話を聞いていたの。来てくれてありがとうね。」
いいえ、と頭を下げて彼女の母親を見て僕は驚いた。よく見れば彼女にそっくりだったからだ。
「ナツオくんに持っててもらいたいものがあるの。」
彼女の母親は日記帳を僕に手渡した。
比較的新しいもののように思えた。
「え、あの、これは」
「桜の日記帳よ。高校からつけてるみたい。」
「いや、何故お…僕に?」
「…何故かしら。ナツオくんに渡さなきゃって思ったのよね。私は中を見ていないわ。だから何が書いてあるのかわからないけど…桜の高校時代の全てが書いてあると思うの。」
僕は中を見てみたい、そう思った。
彼女を知ってみたいと思った。
彼女の母親から日記帳を受け取って、家に帰った。そして日記帳を1ページずつ開いた。
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