ひつじがいっぴき。

先生は眠れるようになったわたしがどうしてまた眠れない日々を送っているのかっていう話しの続きを知りたがっているみたい。



それって、井上先生は小心者のわたしに興味を抱いてくれているっていうことなのかな……。


そんなふうに思ってくれたのははじめてだ。

わたしは少し嬉しくなって、また口をひらく。


「もともとパーソナリティーを務めていた人がいて、その人が風邪で寝込んじゃった代わりに彼はパーソナリティーを臨時ですることになったそうなんです」


「なるほど、それで元のパーソナリティーが仕事に復帰して、声が聞けなくなったから、中山さんはまた眠れなくなってしまったのか……」


「その人の声を聴いて眠れるとかおかしいって思うかもしれないけど、そうなんです。

それで、その人の声と井上先生の声がすごく似てて……」


「俺の声が、そのパーソナリティーの声に?」


「はい」


こくん。

驚いた井上先生の声に、わたしはゆっくりうなずいた。


パーソナリティーの『アラタ』さんの声に出会って安眠できていたこと。

そして、アラタさんの声と井上先生の声が似ていることを話した。


いつもよりずっとたくさん話したわたしは、もうこれ以上何も言えなかった。

心臓がドキドキと音を立てて鼓動しているのがとてもよくわかる。

それくらい、わたしは興奮気味になって『アラタ』さんのことを話していた。


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