ひつじがいっぴき。

「うーん、まだ彼女じゃないんだけど。大切な人からもらったものなんだ」


「まだってことは、それってそれってつまり、新先生の好きな人?」


「そうだよ」


女子が問うその言葉に、井上先生は相づちを打つ。

その瞬間、わたしの体は硬直した。



だって……。

だってね、夜はあんなに話していたのに、先生に好きな人がいたなんて知らなかった。

わたしは先生の何もかもをすべて知っていると勘違いしていたんだ。


そりゃそうだ。

だって、わたしは井上先生の大学での生活は知らない。

お友達のこととか、そんなこと……知らない。





……わたし、ヘンだ。

どうしてそれくらいのことで胸が苦しくなるんだろう。



どうして今、泣きそうになっているんだろう。


胸がズキズキ痛い。




でも、その理由は知っている。

わたしにとって、井上先生は特別なんだもん……。


だから井上先生にとっても、『わたし』っていう存在は誰よりも特別なのだと、そう思い込んでいた。


わたしは……。

ああ、どうしよう。

なんていうことだろう。


頭に浮かんだその気持ちをあらわす言葉に、わたしはたじろいだ。


その言葉っていうのは――。


井上先生のことが『好き』っていうものだった……。




気がついてしまった井上先生への想い。


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