ひつじがいっぴき。

いつの間にかわたしの中で、救世主のアラタさんよりも――。

ううん、それとは違う『好き』が生まれていたんだ。


自分の気持ちを知ってしまったその日。

わたしは日誌を職員室に持っていくことができず、机の中にしまって帰った。




「先生、ごめんなさい。日誌を届けるの忘れてました」

いつもの電話をしながら、わたしは先生に謝る。

――知ってしまった先生の想いをひたすら隠して……。

だって、気持ちを知られたら、きっと気持ち悪いって思われる。


根暗で可愛くもないわたしが井上先生に恋をしているなんて知られたら不快に思われる。


どうしようもないわたしを先生は受け入れてくれた。

こうして夜遅い時間になっても話しをしてくれる。


だったらこのままでいい。

自分の気持ちを打ち明けず、このままいる方がいい。


好きな人に軽蔑(ケイベツ)されたくない。


自分の気持ちをひたすら隠して先生に嘘をつく。


『そっか、担任の先生には明日の朝それとなく言っておくよ』

井上先生は優しい。


もっと厳しい人だったら、きっとこんな感情を抱くことなんてなかったのに……。


――ああ、でも。

もしそうだったなら、わたしの睡眠不足も解消されなかっただろうな。


そう思えば、ものすごく複雑な気分だ。


井上先生に対する想いが発覚したその日から、井上先生の声を聞いてもわたしの睡眠はまったく改善されなくなった。


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