桜まち 


出かける準備をしていると、お祖母ちゃんが戻ってきた。

「はやかったね」
「なぁに。山田さんとこの子供に、お年玉を渡してきただけだからね」

「お年玉、いいなー。私も欲しいなぁ」
「いくつになって、そんなことを言ってるんだい」

三度目の呆れた溜息をついているお祖母ちゃんをニヤニヤしながら見たあとに、私はウサギのポチ袋を手渡した。

「はい、これ」
「なんだい?」

「私からのお年玉。たいした金額じゃないけど、たまには貰うのも悪くないでしょ?」

ほんの少しだけど、いつもお世話になっているたった一人の身内へ感謝の気持ちだ。
現金て言うのがちょっと生臭いけどね。

「あれあれ。私にかい? こりゃ、驚いたね。菜穂子も、そんなことを考えられるようになったんだねぇ。何より、その気持ちが嬉しいよ」

お祖母ちゃんはポチ袋を両手で持ち、おでこにくっつけるように私へ向かってお辞儀をする。

「ありがとねぇ」

「美味しいお茶っ葉でも買ってよ。私、ちょっと出てくるから。あ、たまにはみかんでも食べて、ゆっくりしなよ。お正月なんだからね」
「はいはい。気をつけて行っておいで」

お祖母ちゃんの笑顔に見送られて、私は櫂君との待ち合わせ場所へと向かった。



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