桜が咲く頃~初戀~
その紀子の明るいい声に香奈はピクリと肩を動かしそれ以上の言葉を飲み込んだ。

「バァちゃん」

香奈はさっきおばぁちゃんが編んで渡してくれた白い春の帽子を右手の平手押し下げて顔を隠した。その様子を見ていた圭亮は香奈の右手をそっと握って窓の外を何を見る訳でも言う訳でも無く見ていた。

圭亮の手のひらは少しひんやりとつめたいのは先程まで外に居たからだとは思ったけれど優しいと香奈は思うと圭亮の手を離せなくなった。

香奈は自分の弱さを誰よりも知らなかったけれど、おばぁちゃんと暮らして来た3ヶ月の間に沢山の自分の弱さを知って来た。

そんな気持ちを知ってか知らずなのか圭亮は強く握る訳でも無く香奈の右手に自分の左手を重ねているのだった。

「1人が良いなんて本間は全然思ってへん」

そう心に言うと。

香奈は圭亮の左手からゆっくりと離れた。

けは何も言わずに頷いて自分の左手を膝の上に移した。

おばぁちゃんの家に帰る道のりはバスから見ていた景色とは同じな筈なのに少し違う様にも感じた。

圭亮の息遣いが傍にあるからだと香奈は思う。


そんな2人の空気を知らない彩未は相変わらず元気な声で紀子に話しているのが車内をにぎあわせていた。

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