桜が咲く頃～初戀～

桜の樹

朝になり、おばあちゃんと香奈は畑に行く準備をした。おばあちゃんは香奈に畑用の服を用意していた。古いトレーナーと黒いジャージ、黒いぶかぶかな長靴は亡くなったおじいちゃんの物だ。昔の人は物を捨てられないらしくその長靴は綺麗に洗われ焼けない様に黒いビニール袋に大切に仕舞われていた。


割烹着に前だけ半分麦藁で後ろは桃色で花柄の布の帽子。それらを身に着けると香奈もそれらしくなって見えた。

『バアちゃん変やない？』

そう言った香奈をおばあちゃんはじぃっと見てから大きな声で笑出した。

『可愛い可愛い』

あまり大きな声で笑うので香奈もつられて笑ってしまった。

『香奈は笑うと美人やねぇ』

おばあちゃんはそう言うとネコ車に道具を乗せて歩き出した。香奈はおばあちゃんについて歩いたけれど思いの他おばあちゃんの歩く速さについて行くのが大変だった。おばあちゃんは物凄く歩くのが早い。

『バアちゃん歩くん早いわ』

そう言いながら香奈の息は切れていた。

『都会の子は足腰弱いねぇ』

と優しく微笑んだおばあちゃんの皺縮んだ顔がとても可愛かった。

『バアちゃん可愛いね』

香奈はそう言っておばあちゃんのシワシワな顔をじっと見た。


空は真っ青で澄み渡り綺麗だなぁと香奈は思った。

『バアちゃん気持ちいいね』

『そうか、良かったな』

おばあちゃんはそう言って帽子のツバを左手で軽く押し上げ目を細めて綺麗に澄んだ空を見上げた。
< 13 / 222 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop