桜が咲く頃~初戀~
『良幸さんよ。あのな人は辛い事があればある程心が弱くなるんよ。何もが怖いと思ったら逃げたくもなる。それは分かる。その辛い事が人の心を弱くさせたり強くさせるんや。それを「知る」って言う事やとバァは思う。違うか?「考える」とは全く別物や。「知る」んやで。良幸さんは言ったらいかんとずっと思ってたけど。人の道を外して紀子と結婚した。今償わくて何時償うんや?分かるか?紀子と出逢って一緒になる迄の気持ちが純粋であったにしろ。紀子も香奈も、前の御家族も1人で傷つけたんや。分かるな?でも人は弱くて情けないもんや。自分が嫌だとか辛いとかに逃げたくなるもんやし。戦争で辛い目に会ったり災害で辛い目に会ったりした経験の無いものは「井の中の蛙」でな、なぁんも経験しとらん、辛い目に合わんもんが、なんぼ寄付したり優しい言葉を掛けたとしても大変なもんは大変や分かるか?でもな。気づきがある時がある。それは井の中の蛙でもそこから見上げる空が広いと気づいたらチャンスや、それが出来るんやで。たった1つでも希望は持たないといかん。「知る」事が大切や。子供の気持ちやら他人の気持ちはよう分からんが当たり前。しかしな、その人を思い「知りたい」と思う気持ちが大切や。良幸さん「辛い」って字があるじゃろ?あれに「知る」って気持ち「一」つ思いやればいい。全部は出来んしな。「一」っや。その「一」つの字を「辛」い字に足すとな「幸」になるんや。出来たらな、彩未を迎えに来る時は良幸さんが来なさいや。バァはまっとるで』

そう紀久代が話している間に良幸はシクシクと電話を握りしめて泣き出した。紀子は母紀久代が言いそうな言葉が何となく分かっていた


『わかりました。そちらにお伺いさせて頂きます』

と良幸はそう言って電話を切った。そして紀子の顔を見上げて苦笑いをして

『紀子。俺、香奈に会いに行くから』

そう言った。
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