桜が咲く頃~初戀~
そんな景色に気を取られていた香奈は朝とは違う景色に気が付いた。

『道を間違えたんかなぁ?』

香奈は呟くと歩いている足を止めて周りを見渡した。誰も居ないと思うと強い不安が香奈を襲って来た。あんなに1人でいる事が好きだったのにいる今は誰も居ない風景が香奈を淋しくさせているのだった。

周りを見渡した時香奈は目の前にある大きな桜の樹がある事に気が付いた。その桜の樹は周りの大地をしっかりと掴んでいるかのように太い根は盛り上がり何本も地面をくねらせ這っていた。もう蕾さえ付けないかのような桜の樹は春の訪れをも静かに見ているだけのような感じがした。その樹を見ているとさっきの不安が静かに治まって行くようだった。

香奈は桜の樹に近づき優しくそっと両手のひらで触ってみた。冷んやりとしていて湿り気のある樹の皮はとても良い香りがして気持ちよかった。香奈はその香りを全身で感じるかのように両手を一杯に広げ抱き締めそっと目を閉じた。

海の波が歌う声に風が囁きながら枝を鳴らす音色を聴いていると香奈の心はそれらに支配されたかのように柔らかくなっていた。

そしていつしか夢を見ている気持ちになっていた。

ふと我に返っていつの間にか寝ていたんだと気が付いた時には空は橙色に染まり周りは薄暗くなっていた。

当たりを見回すと誰も居ない。早く帰らなければと思うものの何方に行けば良いのかも分からず香奈はさっきの不安を思い出し泣き出した。

色んな事を思い出す。父が家を出て行った日の事、母がリビングで泣いていた事、妹が「お姉ちゃんお姉ちゃん」とまとわり付き鬱陶しいと思った事。「心配せんでえいから」とココに連れて来てくれたおばあちゃん。

「皆に会いたい」

今までの勝手さが胸をつき悔やまれた。





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