桜が咲く頃~初戀~
香奈は深みにハマらないように桜の樹の根元に座り込んで泣いていたが思い直し立ち上がると泣くのを止め、右手の人差し指で涙を拭った

そして桜の樹をもう一度見上げて『あなたは何時も1人でいるのですか?』と話し掛けた。

『アナタハ ナニヲシテイルノ?』

桜の樹から声がした。香奈はビックリして飛び退くと。


『誰かいるん?』


と辺りを探してみたけれど何の姿も見当たらない。

『ソンナニ サガサナクテ イイヨ スグソバニイルカラ』

その声は桜の樹から聞こえて来た。香奈は恐る恐る桜の樹を見上げてみたすると。桜の樹の枝を伝いするすると小学生低学年位の男の子が降りて来た。男の子は白いシャツに黒いショートパンツ白いハイソックスに青いスニーカーを履いていて髪は前髪を綺麗に揃えてあるけれど清潔な感じのする長さだった。顔は頬っぺたがほんのりと赤く目は切れ長の猫のような淡い色をしていた。

『君は、幽霊なん?』

香奈は全く怖いとは思わなかった。

『ソンナンヂャナイヨ デモ ボクハ ヒトトシテイチドモ ウマレテナイシ コレカラモ シナナイ』

そう言って男の子は香奈の質問が堪らなく可笑しいかのようにコロコロと笑った。

『じゃあ、一体なんなん?』

香奈は桜の樹の枝に座って笑っている男の子を見上げると不思議そうに聞いた。

『ソノウチニワカルヨ モウ サムイカラ オウチニ カエリナヨ』


そう言うと男の子はまた桜の枝を伝いスルスルと登って行こうとした。香奈は男の子に向かって叫ぶように聞いた。



『待って!帰り道が分からへんの教えて!』


男の子は中程の枝に腰掛けて香奈を見下ろした。
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