桜が咲く頃~初戀~
夜になって紀子から電話がかかって来た。


『あっ、香奈?お父さんがさっき退院したから多分、明明後日の土曜日には一緒に彩未を迎えに行くんやけど。香奈はどうする?』

そう聞かれた香奈は

『まだ、おばあちゃんの所におる』

と言って電話を終わらせた。


「お父さん来るんや…」そう思うと何時かの日良幸が大阪の家を出て行った日のあの寂しい背中を思い出して鼻の奥がキーンと痛くなった。

泣きたいのでは無い。切なさで胸が痛くなったのだ。

そんな時に圭亮から今日何度目かのメッセージが届いた。

『香奈ちゃん。俺、明日朝早く東京戻るから今、そっちに向かってるし。会えるかな?』

と書いてあった。

『うん。起きてまってる』

そう返信をすると、直ぐに『OK』と返事が返って来た。

香奈は彩未を寝かし付けた後まだまだ寒い夜の空気におばあちゃんの編んでくれたマフラー巻きおばあちゃんの半纏を羽織ると縁側に座って圭亮を待った。

待つと言う作業はとても時間が進まない気がし、長く感じられて、その焦れったさに香奈は少し不安を感じながらソワソワしてしまっていた。

しばらくそうして悶々としていると、おばあちゃんの庭の前に黒いセダンが止まった。
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