桜が咲く頃~初戀~
父娘
『香奈。圭君はもう東京行ったかね?』

珈琲を飲みながらおばあちゃんはスマホを眺めている香奈に声をかけた。

『うん』

少し寂しい顔をしている香奈をチラリと横目で見たおばあちゃんは

『そっか。なぁ、香奈。人はな、出会いもするが別れな行かん時もある。圭君が東京行って自分の事をキチンとすると決めたならそれを、そんな悲しい顔して見送ったいかん』

そう言ってからテーブルから離れて朝食の用意を始めた。そこへ、目を擦りながら彩未が起きて来た。


『おばあちゃん。彩未な、玉ねぎのオムレツ食べたいねん』

そう言いながら、おばあちゃんの立っている流しまで来ておばあちゃんの服の裾を引っ張った。


『そうかね?なら、彩未ちゃん冷蔵庫から卵を4個出して来といで』


と言われた彩未は『やったぁ』と両手を上げて冷蔵庫を開けて卵を4つ取り出しおばあちゃんに渡した。


『この間の、お兄ちゃんのオムライスの卵ふわふわで美味しかったね〜』

と、おばあちゃんに同じ様に焼く様にねだっていた。

『あぁなぁ。バァにはあれは難しなぁ。』

おばあちゃんは苦笑いになってそう言うと彩未は残念そうな顔をした。


『彩未。パジャマのまんまやん。早く着替えておいで!』

香奈が少しキツめにそう言うと彩未は『はぁい』と少しつまらなそうな声をだして座敷に上がった。香奈ははっと思いだして


『彩未。今日めたまだ寒いからお花柄のワンピースは着たらあかんで』


そう窘めた。

『彩未ちゃん。明後日は暖かくなるってお天気のお姉さんが言ってたから、丁度お父さんも来るし、その日に着たらえいねぇ』


おばあちゃんが優しくそう言うと彩未は

『えー!!お父さん来るん?』

と大きな声を出して履きかけたジーンズを1度脱ぐと右手に持って土間の降り口までやって来た。

『そうやで』と彩未に振り向いたおばあちゃんは『あはは』と大きな声を上げて笑ってから


『彩未ちゃん。風邪引かんうちにはようズボン履きなさいや。もうすぐオムレツ出来るでな』


そう言って玉子焼き器に溶いた卵を広げた。油に落ちた溶いた卵はパチパチパチとリズム良く跳ね焼ける良い匂いが家中に広がった。
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