桜が咲く頃~初戀~
少し歩いて行くと前から白い軽トラックが来て圭亮の前で止まった。


『あれ?川嶋さんくの圭君やないのう。まぁ垢抜けたねぇ』


そう言いながら助手席からよいしょと降りてきた顔を見て圭亮は何故かこの村に帰郷してから張り詰めていた緊張感が緩んだ。


『バァちゃん』

圭亮は小さなおばぁちゃんの肩をポンポンと叩くとふぅと一息ついた。

『バァはな、今から常ちゃんとお医者に行くんよ。香奈がな今、こっちに住んどるし会いにやってな。何時も1人あの、ほれ、桜の樹ん所におるし。ほならな』



おばぁちゃんは1人それを急いで喋るとイソイソと軽トラの助手席にうんしよと乗り込み行ってしまった。

ー香奈ちゃんかぁー

圭亮は昔から休みになると大阪からおばぁちゃんの家に1人で遊びに来ていた香奈を思い出した。楽しそうに皆で話をする中何時も1人静かに縁側に座り本を読んでいた姿がつい最近の事の様に思い出された。


ある時何時も1人、人から離れて本を読んで過ごす香奈に圭亮は話しかけてみた。

『何を読んでるん?』

返事がなかった。

『香奈ちゃん、何で何時も1人で居るん?皆んなの所行かんね』


香奈は圭亮を一度も見ずに肩をピクっと動かしただけだった。

ーなんや可愛いないなー


圭亮は随分とガッカリした。香奈は学校が休みになるとここに来て何時同じ縁側に居る。圭亮は密かにそれが何時も待ち遠しいのだった。

圭亮は香奈が来ると聞くと、おばぁちゃん家に理由の分からない用事を作っては香奈に会いに来た。


ーずっと好きだったもんなぁー

少し照れながら微笑むと圭亮は俯いていた顔を上げてあの桜の樹に向かって歩き出した。

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