桜が咲く頃~初戀~
バス停に着いた時少し遠くからバスのエンジンと田舎道の砂利を踏む大きなタイヤの音が聞こえて来た。

『間に合った』

圭亮は今朝この場所に降り立った事が遠い記憶の様に思えた。今度は近づいて来るもう夕暮れの冷たい春の風の匂いがする薄紫色の中に立ってバスを待っていた。



バスは二人の前にキィーと高いブレーキ音を響かせ止まった。後ろの乗車口に圭亮はやんわりと香奈の背中を押して寄せ、ステップに上がる香奈の足元を注意深く見ていた。

香奈はそんな圭亮の中に何気ない優しさが胸に刺さった気がしてまた泣きたくなった。

『圭亮君ありがとう』

圭亮はうんうん、と2回頷くと香奈の背中から手を離した後乗車口のステップに右足を掛けたてふと今朝この場所に降り立った自分を思い出した。

溜息が喉の奥で詰まって苦笑いをした。


< 49 / 222 >

この作品をシェア

pagetop