桜が咲く頃~初戀~
おばぁちゃんは香奈の頭に乗せた帽子をポンポンと2回優しく叩くと『うんうん、似合っとる』とシワシワの可愛い顔で笑った。

―私はこんな風に人の為に何かをしたことがあぅたやろうか?全然ないわ―

そう思うと大阪の家族の事を思い出してため息を誰にも気が付かれない様についた。

―我儘やな・・私は―


そう自分に心で言った途端におばぁちゃんの家に来てから初めて大阪が恋しくなった。

『バァちゃんどんなんね?具合は?』


圭亮は窓のサッシにの出っ張りに腰をかけるとおばぁちゃんの肩に軽く手を乗せた。


『あはは。なぁんも心配せんでえいんよ胃潰瘍やからね。前からお医者にかかっとってな今回は検査入院になるかも知れん言われとったから想定内よね。今度は癌の検査もしてもらうんよ。香奈が家に来たしバァも張り切らんといかんなったからなぁ』

そうおばぁちゃんは言うと少し不安な顔を見せたがすぐに何時もの優しいシワシワの顔を緩めて香奈の頭を撫ぜた。

『そんならえいけど。香奈ちゃんは俺が手助けするし心配せんでな』

圭亮が少しおどけて言ったのでおばぁちゃんの顔が変わった。

『圭。ふざけて香奈に何かしたら許さんで。香奈はまだ生娘じゃけな』

おばぁちゃんの少しつり上がった目を見ていたら香奈は何だか可笑しくなった。そして圭亮の真っ赤になった顔を見てたら笑いたくなって来た。

『バァちゃん何を言うんね!俺はそんなことせんよ』
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