桜が咲く頃~初戀~
『香奈ちゃん。もう遅くなったからそろそろ帰らんといかん。バァちゃんの言うように変な噂でもだったらいかんし。俺、明日また来る』


そう言うと圭亮は縁側から降りて膝を抱え込む香奈を見下ろした。
香奈は顔を上げて圭亮を見た。また1人になる寂しさがこみ上げてきたけれどどうする事も出来ない。

『香奈ちゃん。明日、バァちゃんの病院に行く前に桜の樹に行ってみん?』

圭亮は香奈の不安な気持ちに今、答えて上げられる立場では無い事をよく分かっていた。暫く香奈をしげしげと見詰めてそう言った。


『香奈ちゃん。大丈夫?何かあったら俺ん家に電話しておいでよ。枕元に電話機置いて寝るから』


そう言って香奈の頭をポンポンと優しく叩いた。そんな圭亮を見上げて香奈は少し顔を歪ませて笑ってみせた。

『圭亮君。私は大丈夫やでありがとう』

そう言って圭亮の背中を押した。

『じゃ、俺帰るから何かあったら必ず電話しぃよ。お休み』


『お休み』


香奈は軽く手を振った。圭亮は何度も何度も振り返りがながら手を振り小さくなって行った。

その後ろ姿を何時までも縁側に座って香奈は見ていた。
< 68 / 222 >

この作品をシェア

pagetop