桜が咲く頃~初戀~
『兄ちゃんは何で来たん?』

彩未は圭亮の手から離れると香奈の側に擦り寄って来て小さな声で香奈にヒソヒソと聞いて来た。


『彩未ちゃん。俺は香奈ちゃん
、お姉ちゃんとバァちゃんの病院に行く前に大きな桜の樹を見に行くんよ。彩未ちゃんも行く?』


圭亮は彩未の背の高さまで屈むとそう聞いた。


その圭亮の言葉をを聞いた紀子は「はっ」と息を飲むと胸に両手を押し当てて香奈への幸せが来たのだと感じた。

『うん行く』


彩未は益々甘えた声を出して大袈裟に飛び跳ねた。

『彩未。お兄ちゃんの言うことちゃんと聞くんよ』

紀子は彩未の頭を優しくポンポンと撫でた。その3人のやり取りを皿を洗い終え水道の蛇口をキュッと締めながら優しい気持ちでいちっぱいになった。

香奈の緊張した空気は次第に柔らかくなって行った。
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