桜が咲く頃~初戀~
それからも彩未は自然が生み出す命を見つけては眩しそうに愛しそうに目を細めて、ただ静かに眺めてはうっすらと笑みを浮かべていた。こんな幼い子でもまるで恋をした大人の女性の顔をするのかと香奈は少し戸惑った。圭亮は相変わらず時折不安な顔をして空を見ていた。

-圭亮くん。東京で何があったん?-

 
香奈は圭亮のそんな顔を見る度に心で圭亮に問いかけていた。


圭亮の横顔が何だか大人びていて幼い記憶にいる圭亮では無いような気がして香奈は胸が狭くなってしまうのだった。



ザラザラと少し先の方からバスが来ていた
のが見えた。間に合うかと心配したけれど
バスはバス停に入って3人を待っていてくれた。


一番始めに彩未はバスの登場口の右側についている少し錆びたシルバーの手すりをギュツと握って「うんしょ」と言って嬉しそうに乗り込んだ。


香奈はそんな彩未を支えるかの様に左手で彩未の背中を押して続いて乗り込んだ。


「よぅ。兄さんまた会えたのぅ」


少し俯き加減だった圭亮はその声に顔を上げた。


「あっ!」
 

昨日の若い運転手だった。

「随分。ふとったなぁ忘れてんか?俺の事。圭がこんまい頃桜の樹のはたで泣いてたん、おぶったんやけっ」


そう言って若い運転手、大野大樹は昨日と同じ爽やかな笑顔でピースサインを圭亮にして見せた。


「あっ!大樹さんでしたかっ」


圭亮はさっきと違う本当に嬉しそうな笑顔と大きな声で叫んだ。


香奈と彩未は圭亮のその声に椅子に座ろうとしていた動きを止めて振り向いた。




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