桜が咲く頃~初戀~
白い帽子
「彩未。何か誰か見えたん?」


香奈が桜の樹の枝の上から溢れる日を左手で遮りながら「コトダマ」が居るかと探してみた。


「おねぇちゃぁん。彩未、何にも見てないよぉ」


彩未は嘘をつく時必ず両手を口元に持ってくるからすぐ解るのだ。


「きっと。彩未ちゃん幸せになるよ」


圭亮は彩未の頭を優しく撫でて言った。


暫く。3人は桜の樹を繁々と見詰めていたけれどお婆ちゃんの病院に行く時間も来ていたのでバス亭までの道のりを歩き始めた。彩未は何度も桜の樹を振り返って見ていた。香奈はそんな彩未の仕草が何だか可愛なぁと思っていた。



-彩未今までごめんやで-


そう心で呟いてから圭亮の横顔を見た。何だか淋しそうな横顔だった。

いつの間にか圭亮になついた彩未は圭亮の薄い青色のフリースの左側の裾を確り握って楽しそうに歩いていた。


「彩未ちゃん。足痛くない?」


朝から歩いてばかりだったから圭亮は彩未に優しく聞いてみた。

「うん。平気!あっ」
 
彩未はそう言うと少し先の道端に咲く小さな白い花を摘まんで香奈を見た。


「おねぇちゃん!この、お花摘んだら可哀想?」

 
しゃがんで無理な形に顔を捻らせ振り向いた彩未の目はキラキラと空を映していて綺麗だなぁと香奈は思った。


「うん。可哀想やと思うんやったら止めてあげや」


香奈は彩未と同じ年の頃に母、紀子に同じ問いかけをして。紀子が答えてくれた同じ言葉を彩未にかけた。



そんな自分の胸の奥には小さな水の流れがあり、それが静かな音色を立てて流れて行く涼しげな気持ちが香奈の身体を通り抜けた様な気がした


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