桜が咲く頃~初戀~
男の子の母親は友達主婦と話が弾んでいたらしく事の流れも自分の子供が何をして何をされたか全く分かっていない様子だった。

『パンダさん、大丈夫?』

彩未は大きなパンダのぬいぐるみに手を差し出した。

香奈が呆気に取られついると圭亮が長い足を大股で早足に2人に近いて


『すみません、大丈夫ですか?彩未ちゃんカッコイイやん!』

と少し苦笑いしながら言った。


着ぐるみを着ているパンダは立ち上がるのにモゴモゴしていたが、圭亮は背中を支えながら起き上がらせた。

彩未は何故か圭亮に「カッコイイ」と言われまるで、悪者を倒した正義のヒロインみたいに腰に両手を当てながら得意顔で微笑んでいた。

まるで守るべきものを守れた大切な何かが見えるみたいに。


香奈は彩未の姿に時折おばぁちゃんが見せる少女の様な眼差しが重なり見えた気がした。

屋上には少し暖かい日差しと柔らかくそよそよと流れ過ぎる風が吹いていた。

香奈はそれが何だか気持ち良いと感じて彩未を見て言った


『彩未、大丈夫?あかんやんかぁ!大人にお願いしないと。怪我したり、させたら大変やろ?分かるよね?』

香奈は少し困った顔を彩未に見せながらではあったけれど。圭亮が目の前で見せている苦笑いな微笑みに本当は笑いだしてしまいそうだった。


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