ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
 オレンジ色に煌めいたマンションのベランダから夜空を見上げる。ブル−グレ−の壁面に囲まれたリビングル−ムには、大きなお腹を抱えた珠希。アンセリウムの眩しい赤色が、部屋を華やかに彩っている。ハ−ト形の花びらは、フロ−リングの床面にも花を咲かせている。
 五千万円の自己所有マンションと四駆のファミリ−カ−が目標の人生ではなかったので、ぼくと珠希は上野に有る、お洒落な賃貸しデザイナ−ズマンションに身を置いた。

 あのオペから約十年の月日が過ぎようとしていた。




 決して贅沢と呼べる暮らしではなかったが、ふたりして楽しく暮らしていた。

 そんなある日、ふたりの間に神様からの授けものが届いた。
 星はずっと前から知っていたのだろうか? これからぼくの前に起きる出来事を……。


 半年ほど前、珠希のお腹にひとつの命が芽生えた。おとことおんな。それも籍を入れたふたりだ。だれに憚れることも無い。愛しあった結果。生命は誕生する。 
「凄いよなぁ珠希、今、お腹の中に何かが居るんだよ」

「うん。でもまだ実感が無いけど」

 キュッと締まったウエスト回りを押さえて珠希はつぶやいた。
 エコ−で見たちいさなその物体。それはまだ芋虫のような形をしていて、ぼくと珠希は自分たちが造り出した生命体の写真を見てこころ踊らせた。
 しかし、ぼくたちにとって喜ばしい出来事に思われたそのちいさな生命体の誕生は、月日を重ねるにつれて珠希の身体をエイリアンのように蝕んでいった。


「……」

「大丈夫か珠希?」

 仕事から自宅マンションに戻ると、シャンプ−ドレッサ−の前で膝まづく珠希。嘔吐している。

「うん……今日、行きつけの病院で、ゴホッ、ゴホッ……診察してもらったんだけど……三ヶ月だって、……一応、順調なんだけどわたし、ちょっと悪阻が重いみたい……」

 たどたどしくそう答えた珠希は、ふたたび嘔吐し出した。
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