ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
「これいい色ね。値段は?」

 口紅のサンプルを手に取って、瞳を輝かせている。三十代半ばの主婦。

「テンパ−引きで、こんな感じですが」

 電卓を弾き、値段を見せると、飛び付いて来た。

 ネックレスがひとつと、ファッション・リングを三つ、そして口紅の注文をひとつ受けて、預かり伝票を手渡して店に戻る。



 ラジオ・ペンチにクロス、そして極細ドライバ−を使って器用に修理する。
 器用と言ってもこの身体だ。ときにブレ、ときには的を外すがそこは慎重に作業。ネックレスはバフ掛け出来ないので専用の液体に浸して、ハブラシで軽くこする。
 みるみるうちに汚れは消えて無くなり、金本来の輝きを取り戻す。そしてリングの洗浄。バフを掛け、先ほど液体に数分浸す。同じくブラッシング。入社当時に先輩から教わった通り、リングの内側、ちょうど輝石の内側に当たるところは光りが通るようになっていて、そこに汚れが溜まりやすく重点的にブラシを入れる。生き返る。輝石たちが光り輝き出す。仕上にクロスでアップすれば終了だ。
 そのまま伝票の整理や何かをしていると閉店時間になり、先輩社員や女子社員は早々に帰宅して、ぼくひとりになった。
 例のからくり時計が十時を告げる。後始末を素早くこなして店を出る。

「帰ると寂しいからなぁ、また寄るとするか」

 真っ直ぐに帰宅すると、ひとりの夜が長く感じる。ぼくは今夜もMovie・onに寄り道をする。


 ドアを開けると大音量が耳に入ってくる。フロ−リングのカ−キ−色がきれいに磨き上げられていて、ピカピカ輝いている。さっきのリングのようだ。
 相変わらずの親子連れ、今夜も大繁盛。レジカウンタ−に居るアルバイトに奴の居場所を聞いてみると、どうやら二階で作業中らしい。

「なかなかいいメロディだな」

 流れている楽曲に耳を傾けながら二階に上がってみるのだが、奴は見当たらない。洋画旧作コ−ナ−からジャンル別、その左手にピンクののれんが掛かっている。アダルトコ−ナ−。のれんを潜り、ぼくは突き進んだ。
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