ファンレター
「も、もうっ、何よ」
「涼、十ちゃんから電話よっ」
「えっ…」
照れたように赤い顔をして、母親が満面の笑顔を見せた。
多分私の方が、赤くなってたと思うけど。
十…?
ホント…?
ドクンドクン、ドクンドクン…
別に顔が見えるわけでもないのに、私は目の前にあったハンドタオルを頬に当てて、体を小さくかがめるように受話器を手にした。
あんなに平気でケンカもしてた十なのに、別の人と会話するみたいに緊張する。
「もしもし、十?」
いつもと変わらない声を出せてるかな。
ドキドキしてるの、バレてないかな。
自分の声の感覚まで失ってしまいそうで。
もう、今の状態もよくわからない。
「あ、久し振りだね。ごめん突然」
わぁ、十の声だ。
サーッと体を何かが通り抜けて、鼓動が強調される。
ドクンドクン、ドクンドクン…
「十…、元気でやってるの?」
気がついたら、勝手に涙がこぼれてきた。
でもそれを隠すことに必死になりながら、十に言葉を返した。
なんだか、今の時間がすごく贅沢に思える。
「十、すごいね。いろいろ活躍してるのちゃんと見てるよ。こっちではすっかり有名人だよ」
「うん、ありがとう。ごめん、あ…ちょっと!ゆっくり話せないんだけどさ、なんか撮影とか忙しくて。わっ、待ってくださいよ、わかりましたから~」
「十…?」
向こう側はなんだか騒がしい。