ファンレター
学校に編集者の人が取材に来たこともあった。
「十くんの魅力って何だと思いますか?」
いきなりマイクを向けられて困った私も、思わず
「やさしいところかな……」
なんて答えてしまって。
変な感覚だった。
まるで遠い人のことみたいに、十のことを話す自分がもどかしい。
「あ、十くんが登校して来たわ。カメラマンこっち来て」
以前にも増して沢山の女の子に囲まれる十。
私に近付かないで。
話しかけないで。
そんな風に思ってた十に、今は簡単に近付くこともできない。
「ねぇ、羽田さんて南中学じゃなかった?それって十君と一緒だよね!彼どんな感じだったか教えて~!彼女とかいたのかなぁ」
おこぼれをもらうように、おかげさまで私には十のファンだという女友達が増えた。
中学時代の写真を売ってほしいと言う子まで現れた。
「私はあんまり仲良くなかったし…」
幼なじみだと言ったら、どれだけうらやましがられるだろう。
つき合ってると噂されたことがあるなんて言ったら、どれだけ悔しがられるだろう。
今はもう、ほとんど話すこともないけど。