アルバイト執事にご用心
エリーゼとクレアはお墓近くのケーキ屋さんで話をした。


エリーゼの話をきいていると、父が母を亡くしてからどれだけさびしかったかがうかがえた。

仕事のことでも、生活のことでも母がいなくて困っていたことはたくさんあったのに、自分にはきいてあげるだけの技量がなかった。

今でもゼイルの話さえ分からないことが多すぎる。

クアントは最愛の人にもっと支えてほしかったんだとクレアは思った。

(やっと支えになるかと思ったエリーゼさんが現れたときには・・・父はもう・・・そんなに生きられなかったんだわ。)



「ごめんなさい・・・エリーゼさん。
私がもっと、もっと早く父のことも会社のことも知る努力をしていれば、エリーゼさんは私のお母さんとして家にいて、弟さんだって会社のことをもっと信じてくれただろうし、死ななくてもよくて・・・その奥さんだって・・・。」


「そんなこと!!私はそんな望みは・・・なかったといえばうそになるけど、それは自信がなかったんです。
だからあなたが気にやむ必要なんてぜんぜんないんです。」



「それは、あなたが独身で私のような大きな子どもがいる男性に偉そうにいえなかっただけじゃないですか・・・。だから。」




「それは違うな、クレア!」


「えっ?・・・」



クレアが驚いて振りかえるとゼイルが店にきていた。


「どうして・・・ここへ?」


「クアントの墓参りにきたら、2人がここにいるのが見えたから・・・様子をね。」



「エリーゼさん、あなたにはお子さんがおられる。
クアントと出会う前に同棲していた男の子どもが。」


「はい。」


「ええっ、そうだったんですか!」



「クアントもそれは承知していた。承知していながら結婚を申し込んでいたんだ。
でも、エリーゼさんは断った。

そしてどんなにクアントが説得しようとも返事はノーのままだった。
クアントはそのうち自分の病気を知って、弟さんの会社は自分にまかせてほしいと頼んだ。

それが当時の精いっぱいの愛情表現だったらしい。クアントのね。」



「そうだったの・・・知らなかった・・・。
どうしてお父様は何も言ってくれなかったの?」


「君の受験のことや、俺と兄のこと・・・いろいろ考えてのことだと思う。
もうクアント本人がいないから真相究明はできないんだ。

でもいえることは、弟さんはうちの買収を拒絶した。
うちより聞こえがいい買収を選んでしまったんだ。

うちは相場の買収価格を唱えていた他に、条件があった。
それは・・・エリーゼさんを会社の役員にすること。
取締役会に出てもらうことだったんだ。

だが、弟さんはそれが心の中で整理できなかったんだよ。
理由は、エリーゼさんの娘さんの父親が弟さんの奥さんの元カレだったからだ。」


「ええっ!!!本当なの?」
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