記憶 ―黄昏の蝶―


次第に人々は心配になった。

この氷が溶けきり、
彼が再び自由になったら、
この星の行く末はどうなるのだろう…と。

光に照らされ、
溜まった水に溶かされ、

みるみる小さくなってしまった氷を、人々は力を合わせて運んだ。

少し離れた所に、
手頃な「洞窟」が在ったからだ。

祭壇を作り、
光の届かない場所へ。

それでも染み出す地下水で水位は上がり、氷は浸かる。

氷が溶けきっても、
彼が逃げ出せぬ様に…、

洞窟の入口を閉じた。


「…これが、この地に残された『人柱』の真実じゃよ。後に洞窟が水場に浸かると、それを守る様にして…」

「…協会本部を、建てた…と。」

「そうじゃ…」


初代法皇は、疑問を持った。

あの白い星は、
神の住む星なのか。

現に「人」が来たではないか。


その頃には、
カロリスは水場になり、
産まれる子供に「人魚」が増えていた。

この水場で暮らす為に、
人々に訪れた進化だった。

神のみが成せる業だと崇める人々と、疑問を持つ初代法皇の間で対立が生まれ、

初代法皇は「異端者」として、
カロリスの果てに追われた。


それが、
お祖父さんの話す全てだった。

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