恋文
「俺、奈美に何度か告白してるけど、ガチで告白したことないんだー。奈美も奈美で軽くあしらうからさ。」
茶封筒を見つめながら、右側から聞こえる悠哉さんの声に耳を傾ける。
キリキリと痛む胸には気付かないフリで。
「でも、もし、もしもって考えると怖くてさ。冗談なんかじゃなく、本気でフラれたらってことばっかり考えちゃうんだ。情けないだろ?」
「ううん。全然。奈美さんだって、きっと悠哉さんのこと好きだよ。」
掛ける言葉が見付からなくて、適当なことばかり言ってしまう。
ありきたりな優しい言葉。
ありきたり過ぎて、だんだん言う側も言われる側も飽き飽きするような〝きっと〟。
きっと大丈夫。きっと相手も好きだよ。きっともっと良い人がいるよ。
無責任な言葉だなー、と改めて感じながら、悠哉さんを見る。
「そうだと良いな。」
たった一言の優しさ。
悠哉さんは優しいね。
アタシなら『無責任なこと言わないで!』くらい言うよ。
悠哉さんは優しいから、だから、アタシな気持ちを知ったらアタシの前から消えるんだろう。
だいたい予想はつく。
それくらい悠哉さんが好き。
ちょっと前まで、片想いなんてありえないと、片想いなんてつまらないと思っていたが、とんだ勘違いだったみたいだ。
誰かを好きになるなんてないと思ってた。
でも、気付いたら悠哉さんに惹かれてた。
自分でも驚くほどに、悠哉さんが好きで、悠哉さんが幸せならそれで良い、と。
自分より人の幸せを優先するなんてアタシらしくもない。
アタシにフラれても、笑って「俺、フラれたくらいじゃ諦めませんから。」と言ってくれた男子を、諦めた方が幸せなのに、と思って見てきた。
そんなアタシだから恋なんて出来なかったんだろうな~。
片想いっていうのも、これはこれで楽しい。
全然つまらなくないし、毎日がハラハラドキドキだ。
今なら、アタシのことをいつまでも好きでいてくれる男子の気持ちがよく分かる。
きっとアタシも、悠哉さんにフラれたくらいじゃ諦めきれないだろうから。
諦めた方が幸せだと分かっていても、あ、はい。じゃあ、諦めます。なんて、すぐに諦められるようなものじゃない。
口で言えたとしても、心までは追い付かない。
失恋とはそういうこと。
恋とは失恋の恐怖に怯えること。
高2年の夏。
アタシは初めてそれを知った。