恋文



帰り道、満面の笑みの悠哉さんが、

「はぁー!楽しかったでしょー?」

「悠哉さんがズルして滑り台、先に滑っちゃわなきゃねー」

「あれ?もしかして怒ってる?」

「もしかしなくても怒ってますよ。」

「なにそれコワイ。」

いくらリレ選って言っても、あんなに距離感あって、しかも相手は大の大人。
追い付く筈はない。

「だってーハルちゃん遅いんだもん」

「アタシのせいっ!?」

「あははー!」

「笑って誤魔化さないでよ!」

悠哉さんは誤魔化すのが得意。
いつもニコニコと人懐っこい笑顔を見せるから、あー何かどうでもイイかなー、みたいな気分になる。

「………大人ってズルい…。」

つい口に出た本音。

「そう?」

「そうだよー。アタシも早く大人になりたいなぁ…。」

今のままじゃ、まだスタートラインにすら立てない。
奈美さんに宣戦布告するとか以前の問題すぎて、ため息ばかりが出る。
どんなに頑張っても、時は早く進むこともないし、遅く進むこともないから。
どんなに足掻いても、アタシはずーと悠哉さんより年下のガキのまま。
年の差は縮まらない。
まるでアタシと悠哉さんの距離感みたいに。

「子供は大人の失敗を見てからやり直せるけど、大人は一発勝負。全部自己責任だし、自分を護ってくれる親もいない。大人って、子供が思ってるほど楽しいもんじゃないよー。」

困った困った、と自己責任なんて無さそうにヘラッと笑う。

「大人はねー子供になれないけど、子供は大人になれるんだよ。」

あー、それどっかで聞いたことある気がする。
『大人は子供になれないが、子供は大人になれる。』
大人になれば、この言葉の意味がよく分かる、と。
だから、アタシは大人になりたいんだけどなぁ。

悠哉さんと同じ目線で物事を見てみたい。
1度で良いから大人になりたい。

大人は知らないだろうけど『大人は子供の目線で物事を見れるけど、子供は大人の目線で物事を見れない』んだよ。
大人は子供の頃に戻りたいと願うけど、それはあくまでも諦めかけている夢であって本気じゃない。
でもね、子供は可能性があるから、本気で大人になりたいと思うんだよ。

悠哉さんはどう思ってるのかな?
大人になって物事をどういう風に捉えることが出来るようになったのかな?

「悠哉さんは大人になって良かった?」

子供なりの無邪気なアタシの質問に、返ってきた悠哉さんの回答は意外だった。

「えー、別にー。子供の時の方が楽しいよー?ワガママだって許されるし、何て言っても周りの目が優しい!戻りてぇー!過去に戻りてぇよー!あ、でも…」

「?でも?」

悠哉さんに訊ね返す。
悠哉さんはニッコリと笑って、

「大人になって良かったことは、ハルちゃんと昼間の平日から会えることかな!」

と。
ほーう?なかなか嬉しいこと言ってくれる。
でも、

「別に学生でも会えるじゃーん!」

「ダメだよー。俺が学生の頃は、奈美にぞっこんでハルちゃんに構ってあげられないからー」

心にくる返答をありがとう。

「…そんなに奈美さんが好きなの?」

「うんっ!そりゃあもう!!」

「手紙は?ちゃんと持ってる?また落としても、アタシ拾ってあげないよ?」

ウソだよ。拾うよ。何が何でも拾うよ。
何処に落としたって、どうにかしてアタシが見つけ出す。
だから、アタシ以外にその笑顔を見せないで欲しい。

その笑顔は奈美さんと、それからオマケのアタシにだけの特別にしておいて欲しい。

そんな乙女心は悠哉さんに理解できる筈もなく、悠哉さんは「もちのろん!ちゃんと持ってるよ!」と、わざわざ鞄の中から手紙を取り出す。

2回目に見る手紙は、前と変わらずクシャクシャだった。

「悠哉さん、片手運転禁止。」

「あ、そっかそっか!じゃあ、はい!ちょっと持ってて!」

「……うん。」

少し触れただけで分かる古び方。
好きな人が好きな人にあてたラブレターを持つ乙女の心を誰か分かって下さい。切実に。

「もう、そのラブレターは渡せないねー」

「ボロボロだから?」

「うん。さすがにボロボロのラブレターを渡す訳には行かないでしょー!」

「なんで奈美さんに渡さないの?」

アタシが少し怒るような口調になっても、悠哉さんは特に変わった様子は見せない。
アタシと違って大人だから。

「そんなに簡単なものじゃないんだよ。」

小さく吐き出すように呟かれた言葉。
悲しそうに笑う悠哉さん。

胸がキリキリと痛むのが分かる。
これは嫉妬?ヤキモチ?妬み?きっと全部。


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