恋文
両親はタバコを吸わないし、悠哉さんも吸わないから、滅多に嗅ぐことのないタバコの独特の臭いがアタシの鼻をついた。
アタシは無意識に顔をしかめていたのか、
「ん。タバコ嫌いか?」
と、玲二さんが聞いてきた。
別にタバコの臭いはそこまで嫌いじゃない。
好きでもないけど。
「んーん。別に。てか、玲二さんってタバコ吸うんだね。初めて見た。」
「店じゃ吸わないからな。」
「でも、なんか玲二さんにピッタリだよ。」
タバコを片手に、口から煙を吐き出す玲二さんは、ちょっとホストっぽい。
「別に嬉しくねぇよ。」
「うわっ」
アタシの方に、ふぅーっと煙を吹き掛ける。
一気に視界がボヤけて、少し咳き込んでしまった。
「やーめーてー苺タルトがタバコ味になっちゃう。」
苺タルトを煙から逃がすように、端に寄せながら食べる。
玲二さんは悪びれもなく、悪い悪い、と笑った。
うーん、やっぱりイケメンだなー。
こんなイケメンが祝日に1人で何やってんだか。
「玲二さんって彼女いないの?」
「は?」
「だーかーらー、彼女!」
「いや、別に聞こえてるよ。」
「いないの?」
玲二さんはアタシから視線をずらし、天井を見上げるようにして、また1つ煙を吐き出した。
「…いねぇよ。」
確かに取っ付きにくい性格だけど、優しいし、悪い人じゃあないんだけどなぁ。
なんで、そんなに悲しそうな顔をするのか、アタシには全然分からなくて、ふーん、としか返すことが出来なかった。
「ま、別に、悠哉が好きなお前にゃ関係ない話だろ。」
「そんなことないよ。アタシのバイト先の大事な店長だもん。心配になるよ。いや、まじで。その歳になって彼女いないのはマズイよ?」
「悠哉だっていねーだろ。」
めんどくさそうに眉間にシワを寄せて、視線をアタシに戻す。
「悠哉さんは好きな人いるじゃん。店長はいるの?好きな人。」
「なんでお前に教えなきゃなんねーんだよ。」
「可愛い可愛いバイトじゃん!教えてよ!」
「嫌だ。」
はっはーん。
そのあからさまな態度…怪しい。
「んだよ、その目…。」
「いやぁ~、店長も好きな人いるんだな~と思って。」
アタシは意味深に、ニヤッと笑う。
玲二さんは、すっかり短くなったタバコを灰皿に押し付けながら、
「ああ。いるよ。愛してる人。」
と、何の恥じらいもなく言った。